第12号(2013年8月15日)

「八紘(はっこう)一宇(いちう)」という言葉がある。

『日本書紀』巻第三神武天皇の条に基づいて戦前、国柱会の田中智学によって造られた。「道義的に世界を統一して天下を一つの家のようにする」という意味だが、これが日中戦争を「聖戦」として正当化するスローガンとして使われた

▽国柱会の会員に「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と宣言した宮澤賢治がいる。しかし、賢治と国粋主義の国柱会とは水と油である。「賢治の不明」というよりも、ことほど左様に本物と偽物の区別は難しいことを私たちに教えてくれる

▽「反省のふり」というのがある。これも「偽物」すなわち自己正当化のための目くらましである。「もし私の言い方が誤解を与えたとすれば、心からお詫びします」というのは一見謙虚を装った逃げ口上にほかならない。「すれば・・・」が曲者(くせもの)だ。真率に詫びる者の誠意が感じ取れない。安冨歩東京大学教授は、こういう類の詭弁を「東大話法」と呼んだ

▽本物と偽物を見分けるコツは何か。それは、ひたすら本物に触れることである。目利きの骨董屋は本物だけを見て鑑識眼を磨く。偽物が本物の顔をして現れても、直感と裏付けをもって短期日のうちに偽物と断定する。古典を読む意義もそこにある。

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