創刊準備号(2012年1月1日)

百二十歳で示寂したと伝わる中国唐末の禅僧・趙州(じょうしゅう)は、「私は死んだら真っ逆さまに地獄に行く」と語った。(鈴木大拙「禅の世界」)。ある人から「あなたは死んでからどこへ行きますか?」と質問されて、そう答えたという。
「あなたのような高徳の聖がどうして地獄にお出でになるのですか」。
趙州が答える「私が地獄へ行かなんだら、お前のようなものをどうして救うか」

この逸話を紹介した鈴木大拙は、「世間では、道徳で宗教が片づくと思って居る人もあるやうだが、是は短見者流の僻見で、本当ではない」と指摘している

飢えた虎の親子を救うために、自らの身を虎の前に投げ出したという釈尊の前世譚が法隆寺の玉虫厨子に描かれているが、慈悲心から自らの命を投げ出す行為は、何も聖人だけのものではない。それを為しうるのは「母」である。世の母の大悲は大地より厚い

仏教では、草むらに鳴く虫も、世世生生の父母兄弟であると説く。だから、一切の衆生は我が同胞だと受け止める。世の全ての男が過去世の父であり、全ての女が過去世の母であると思えば、「一切衆生の恩」に報いることこそが人の道であると気づく。
趙州はこの衆生の恩に報いるために、敢えて地獄で苦しむ人々との同苦を選んだ。その発願に救いがある。

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